製造業(光伝送装置) 製品開発での取り組み
中小規模プロジェクトへのCCPM導入では「遅れが早期に分かる」「先々を見越した手が打てる」など確かな手ごたえを感じたが、大規模プロジェクトは一筋縄ではいかない。決して諦めない活動の原動力は、市場制約による危機感の共有と、中長期的なカイゼン目標の明確化である。
■競争が激化している光伝送装置分野で勝ち残るには納期厳守が絶対条件
富士通株式会社
フォトニクス事業本部
ソフトウェア開発部
守澤課長(左)と横山氏(右)
富士通株式会社フォトニクス事業本部ソフトウェア開発部は、富士通グループの主力商品の一つである、光伝送装置の組込みソフトウェア開発を行っている。市場は主に北米などの海外諸国であるが、中国企業の急成長に伴い短納期・低価格の競争時代に突入した。
光伝送装置のソフトウェア開発プロジェクトは、メジャーバージョンアップで納期が約9ヶ月と年々短くなってきており、協力会社メンバーを含めて総勢約60名をマネジメントする必要がある。国内2拠点、海外3拠点と共同開発するなどコミュニケーションの制約も大きい。
大規模プロジェクトは納期が遅れたときのマイナスインパクトが非常に大きく、絶対失敗が許されない環境だ。納期が遅れそうになると残業・休日出勤は日常となり、そこに仕様変更まで入ってくれば、現場は混乱しつつも徹夜してでも仕上げるしかない。
過去に著名なプロジェクト管理ソフトを導入しプロセスの標準化に成功したソフトウェア開発部では、更なる納期短縮を目指してCCPMへの取り組みを開始した。
■「とにかく、やってみるか」
長野氏(左)と秦課長
2007年秋にCCPMを知ったソフトウェア開発部プロジェクト課長秦氏を中心とするメンバーは、早速CCPM検討会を立ち上げ「とにかく、ツールを使ってやってみるか!」との合意を得た。
ところが最初の適用プロジェクトで挫折を味わってしまう。ABP(※)による作業見積もりに対する、現場の反発が強かったためである。
しかし、CCPM検討会は諦めなかった。2008年初頭までの3ヶ月間、毎週検討会を開き作戦を練ると共に、プロジェクトへのCCPM適用を継続したのである。
※Aggressive But Possible:積極的にがんばればやれる日数
まず、大きなプロジェクトの一部(予定期間2ヶ月)に適用し、2週間前倒しするという効果を上げた。更に小規模プロジェクトへの適用を続けつつ、中規模プロジェクト(予定期間半年)にも適用を広げ、納期を守り成功した。
中規模プロジェクトのリーダーを勤めた横山氏はこう語る。『中規模のプロジェクトリーダーは初めてだったが、CCPMは自分に合っていると思った。』『作業のプライオリティが明確になった。』『メンバーにはCCPM工程表を積極的に見せなかったが、却って雰囲気は良かった。』『先々を見越して作戦を立てることができた。』
同プロジェクトサブリーダーの長野氏はこう振り返る。『遅れたときの後続タスクへの影響度が分かるのが良かった。』『判断と対処が早くなった。』CCPM検討会での作戦が功を奏した結果だ。
■次なる挑戦と試行錯誤
中規模プロジェクトの進捗傾向グラフ
挑戦はこれで終わったわけではない。小規模・中規模プロジェクトへのCCPM導入は、あくまで入り口であり、大規模プロジェクトへの全面適用で成功してこそ、「これは使える!」という証明になるからである。
秦課長をプロジェクトマネージャーとする大規模プロジェクトへのCCPM導入を始めたのは、2008年冬のことである。計画作成は難航した。メジャーバージョンアップともなるとタスク数はWBSベースで200以上にものぼり、チームも機能単位に8つに分割する必要があったからである。
CCPM初挑戦となる計画責任者、嘉藤氏は悩んだ。まずは機能別にネットワーク図と工程表を作成し、後で工程表を統合する方式を採用した。しかし「山崩し(リソースの重複を回避するために均等化すること)」を行うといくらがんばっても納期に間に合わないというジレンマを抱えてしまった。大規模プロジェクトにおけるリソースの付加分散には2種類の方法があり、「山崩し」はその1つに過ぎない。
60名ものリソースをコンピューター任せに山崩ししてしまうと、計画が大幅に間延びしてしまい収拾がつかなくなる。この場合は無理に山崩しせず、リソースが重複する都度プロジェクトマネージャーがどのチームのどのタスクを優先するかを意思決定する方法(フレックス法とも呼ぶ)を採ると良い。フレックス法の採用により、殆どの機能は順調に計画作成できたが、1機能だけどうしても納期内に収まらない。今回はあえて最初から赤バッファスタートし、『如何にしてバッファを回復するか』に挑戦することにした。
赤バッファスタートによってチームのモチベーションが低下する危険性もあったが、詳細が明確になったタスクの見積精度を上げ、こまめにリスケジューリングを繰り返すなど、粘り強くチャレンジしている。
■将来の本格導入に向けての挑戦
フォトニクス事業本部では、ソフトウェア開発部のみにCCPMを導入しており、ハードウェア開発部門、装置まとめ部門への展開には至っていない。他部門を巻き込んでCCPMを実践することにより、納期遵守率/短縮率が格段に向上することは明らかであり、CCPM検討会もそれを期待しているのであるが、CCPMは「広がりにくい」という最大の欠点を持つ。CCPM検討会では普及に向けて次の施策を計画し、実行中である。
同様の悩みを抱える方々は、是非参考にされたい。
(1)導入事例の収集・発表
小規模~大規模プロジェクトのCCPM導入事例を収集し、その結果と改善点について事業本部全体にプレゼンテーションをおこなった。
(2)草の根活動
TOC/CCPMスペシャリスト(ゴール・システム・コンサルタント認定資格)を取得し、現場レベルでの普及活動に努めている。
(3)海外展開
海外グループ企業にCCPMを導入中で、順調に事例も増えつつある。国内外での事例は今後の普及活動の大きな武器になるであろう。
(4)強力部署の巻き込み
CCPMの普及活動には、CCPMに理解を示す他部署との連携が欠かせない。地道な活動だが徐々に成果をあげつつある。
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Company Information 富士通株式会社 フォトニクス事業本部 ソフトウェア開発部
富士通グループはIT分野において、最先端かつ高性能、高品質を備えた強いテクノロジーをベースに、品質の高いプロダクト、電子デバイスおよびこれらを活用した各種サービスの提供によるトータルソリューションを提供しています。また、製品やサービスの提供にとどまらず、お客様を真に理解し、お客様にとってかけがえのないパートナーとなることを目指しています。
●所在地:神奈川県川崎市中原区上小田中4-1-1 ●設立:1935年6月20日
●資本金:3246億2507万5685円 (2008年8月末現在)
●従業員:単独=26,351名、連結=175,422名 (2008年9月20日現在)
●U R L:http://jp.fujitsu.com/