いたるところにボトルネックがあり、非常にタイトなスケジュールの業務。しかも失敗は許されない。そのような業務で、段取りを変更することはリスクが伴う。しかし、段取りを見える化し、関係者と共有・調整することで、工期短縮に成功した。

■実験手順書作成業務とは

事例紹介 株式会社エクネイクスラボラトリー様
提供:アメリカ国立航空宇宙局(NASA)

有人宇宙システム株式会社(JAMSS)利用エンジニアリング部では、日本初の宇宙ステーション“きぼう”で行われる様々な実験を成功させるために、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と協力しながら、実験手順の明文化ならびクルーへの教育、本実験の運用サポートを行っている。
『手順書作成』と聞くと、簡単な業務に思われるかもしれない。しかし、実験の希望をだす大学研究機関と実験の承認を行うアメリカ国立航空宇宙局NASAの双方が納得できる手順書を完成させるのは非常に難しい仕事だ。なぜならば、制約条件がいたるところに存在し、関係者も多いからである。

まず、実験ができるクルーの人数は限られているため、実験内容や準備の状況にかかわらず数年前に実験の日が確定し、そのスケジュールを基に進められる。大学研究機関は、より大きな成果を出すため、直近の研究データを基に実験内容をぎりぎりまで変更したい。一方NASAは、実験が正確に行われるように、早めに実験の内容を確定したい。さらに、実験数は日本だけでも百以上、世界では数百の案件が同時に動いている。どこかの実験にトラブルが生じると、他の実験日程にも影響が出る。すべての実験を円滑にすすめるためにも、JAXAやNASAとの連携が必要だ。

その上、利用エンジニアリング部のメンバーは、高度な知識が必要とされるため、すぐに増員はできない。宇宙/システム知識・英語力はもちろんのこと、実験ごとに物理学や生物学などの専門分野の知識も要求される。そのため一人のメンバーが複数の実験プロジェクトを担当している。また、実験スタート後には、地上側の運用業務にも関与しているので、タイプの違う業務も兼務することになる。

■新たな解決手法CCPM との出会い

利用エンジニアリング部 主任技師・熊谷亮一氏
利用エンジニアリング部 主任技師
熊谷亮一氏

入社12年目の主任技師・熊谷亮一氏は、2007年春、利用エンジニアリング部に異動となった。熊谷氏は、複数の実験プロジェクトがぎりぎりのスケジュールで動き、現場が多忙となっている現状をみて、どうにかしたいと思った。
「大学研究機関が満足できるような実験内容にしたい」「クルーが安心できるような手順書をつくりたい」「JAXAとNASAとスムーズに連携したい」いろいろな思いを叶えるにはどうしたらいいだろうか。
熊谷氏は思案を重ねた。忙しい中、合間を見つけていろいろな書籍を読み解決手法を模索していた。そんな時に出会ったのが、クリティカルチェーンプロジェクトマネジメント(CCPM)であった。製造業の事例を見て「業界は違っても悩みは一緒だ」と感じた。CCPM と出会ってからは、工程の段取りをよくよく考えるようになった。

■厳しい納期のときこそ、段取り(工程)を変更する

実験手順書作成には、NASAが国際的にとりきめた標準手順がある。手順書が出来た後、誤記がないか手順書のチェックを行い、実際にうまくできるかどうかシミュレーションし、JAXAが確認作業し、NASAも確認作業を行う。この一連作業を3回繰り返した後、クルーが来日し、最終版手順書を使い実験の訓練を行うのだ。
熊谷氏は、CCPMを適応した最初のプロジェクトで、標準手順のままだと納期に全く間に合わないということに気がついた。手順書修正作業など、まとめられる作業をまとめた上での話だ。そこで、熊谷氏はNASAと交渉し、通常3回のところ2回で最終版とすることを特例として認めてもらった。もちろん3回から2回に減らすことには、リスクが伴う。しかし今回の手順書では、1回目でかなり完成度が高く修正がほとんどなかったことに加え、納期への段取りが明確になったので、NASAも問題ないとして認めてくれたのだ。結果として、1ヶ月ほど工期を短縮することができた。

■今後の取り組み

1回目の適応プロジェクトは、前述のように1ヶ月の工期短縮ができ、現在2回目のプロジェクトに適応しているところである。1回目は熊谷氏が個人的にCCPMの考え方を取り入れてマネージメントを行ったが、2回目からはメンバーと共有しながら進めている。共有することで、メンバーからもいろいろなアイデアが出て、かなり進めやすくなった。
「もし仮に、利用エンジニアリング部全体、さらにJAXA・NASAが、CCPMで運用をしたら、すごい効果が出るかもしれない。そのために、まずは自分が成果を出し、メンバーに認めてもらいたい」と熊谷氏は語る。人事異動から2年目、業務改善を行うのは大変なことだ。CCPMは、熊谷氏の考えた知恵とその効果を、分かりやすく周囲に伝える効果がある。あとは、熊谷氏の思いがうまく伝えられるか次第だ。

■プロジェクト管理 事例 PDFファイルのダウンロード

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Company Information  有人宇宙システム株式会社

国際宇宙ステーション計画の日本の実験棟“きぼう”、宇宙ステーション補給機、スペースシャトルミッション関連業務を実施しております。さらに今後の使命は、“きぼう”の安全・開発保証業務を行うとともに、利用・運用業務のインテグレータとしてこれを成功裡に成し遂げることです。

●所在地:東京都千代田区大手町1-6-1 ●設立:1990年5月14日 ●資本金:4億4500万円 
●従業員:196名(平成20年4月1日現在)  ●URL:http://www.jamss.co.jp/

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